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コラム

2021.07.14

ナラティブアプローチ②

要介護状態になってしまうのは本人にとっては“想定外”のことです。十分な準備もなく、急性期の病に倒れてしまった場合などは、それまで思い描いていたのとは違う人生を歩むことになります。
歳とともに衰えていく身体のことは自分が一番よくわかっているとはいえ、「私にはこの状態を受け止めながら生きていくことが出来る日は来るのだろうか?」と途方に暮れることもあるでしょう。
病気や障害を受容出来るまでの時間は人それぞれです。しかし、介護サービスはすぐにやってきます。まだ自分の置かれた状況やこれからどう生きていくかの問題と折り合いをつけていないのに、本人不在のまま作成されたケアプランに同意を求められることもあるでしょう。
そのステップとして、いくつかのデイサービスの見学に連れていかれることも良くある流れです。

「もう心配ありません。ここは楽しですよ。一緒に楽しく頑張りましょう!」
このように満面の笑みで、自慢げにサービスを紹介するのではなく、共感して寄り添うことから始めたいです。
「この人たちは私が置かれた状況を理解しようとしてくれている」ということをまず相手に感じ取ってもらうことが大切です。

“ありたい自分”と“今ある自分”との“差”。これが“人の苦しみ”です。

その苦しみを少なくするために、“ありたい自分”のレベルを下げることは難しいものです。それはその方の"想い"や“願い”が込められているからです。
それなら「“今ある自分”を少しでもレベルアップしましょう。」と機能訓練やレクリエーションなど様々な提案が押し寄せてきます。本人としては、こんなはずじゃなかったという絶望感や焦燥感とまだ闘っている最中なのに。
「こうすればこうなるからあなたもやったほうがいいですよ。」
「同じ境遇の人はたくさんいます。あなたも頑張りましょう。」

介護サービスを受けるのは、早ければ早いほどいい事が多いのはわかりますが、その方の“ナラティブ(物語)”にも目を向けた支援をしていきたいです。
その方がどういう物語を生きてこられて、今ここにいらっしゃるのか?
家族との物語は?仕事の物語は?描いていたこれからの物語は?

“ナラティブアプローチ”

エビデンスが重要視され、結果を数値化して評価する科学的介護が取り沙汰されていますが、忘れてはならないのが、その方の“物語”に寄り添い、新しい“物語”を一緒に作っていくお手伝いをさせていただくという姿勢です。医療の世界でも、科学的根拠と実績をベースに治療を行うEBM(エビデンス・ベースト・メディスン)だけでなく、患者さんが紡いできた“物語”に着目するNBM(ナラティブ・ベースト・メディスン)の考え方を積極的に取り入れる事例も増えています。

このアプローチでは、その方のこれからの物語の登場人物に、私たち介護職も加わらせていただくことになります。苦しいことが多くなるかもしれませんが、利用者とともにその方の物語を紡いでいくことになるのです。

介護とは、「与える人」と「受ける人」との"作業"ではありません。
介護とは、人と人が共同で作る“関係”なのです。

社会福祉士 板垣慎司

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