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コラム

2022.05.16

2024年介護保険法改正の議論が始まります

2024年の介護保険法改正の議論が本格的に始まります。いつも財務省からの提言に動揺するところからスタートしますが、今回もその提言には議論が先送りされてきたものも含め、財務省の積年の想いが詰め込まれています。

財務省財政制度分科会から提案されている論点は以下の11点となります。少し長くなりますがどれも見逃せない内容ですので、私の解釈を付けて説明していきます。キーワードは「費用の削減」と「制度の持続」そしてそのための「効率化」です。

①介護サービス提供体制の効率性の向上の必要性
介護職員の適正な処遇改善には、介護現場の効率的な人員配置がかかせない。
つまり「これ以上人は増えないので今の人数で何とかする必要がある。」ということです。

②業務の効率化と経営の大規模化・協働化
介護業界は小規模の法人が多すぎる。経営の大規模化と協働化を進めて効率化を図り、利益の出る体制を作っていかねばならない。
つまり「大規模法人ならやっていける報酬に下げるので、付いて来れない小規模法人が出てきますが、覚悟してください。」ということです。

③利用者負担の見直し
介護サービスの本人負担を原則2割にする、または現在2割、3割負担の所得基準の区分を見直して1割負担の人の数を出来るだけ減らす。
つまり「医療保険でもゆるやかに3割負担まで上げられたんだから介護保険もやりますよ。」ということです。

④ケアマネジメントの利用者負担の導入等
介護保険が始まって20年、制度も定着してきたのでケアプランにも自己負担を導入すべき。そもそもケアマネジメントは公正中立なはずなのに、自法人のサービスに誘導するなど当初の趣旨にそぐわないプランが増えている。
つまり「ケアプランが適正なものか利用者の目でも厳しく見てもらおう。」というのを口実にかかる費用を抑えようというものです。

⑤多床室の室料負担の見直し
特養ではすでに基本サービス費とは別になっている居住費(室料+光熱費)が、老健、医療院、療養病床ではまだ基本サービス費に入っている。これらを保険外に出します。
つまり「在宅でかかる費用は施設でもかかる。居宅と施設の公平性を確保する。」というのを大義名分にして基本サービス費を下げようとするものです。

⑥区分支給限度額のあり方の見直し
これまで政策上の配慮を理由に区分支給限度額の対象外に位置付けられている加算が増えてきた。制度創設時の理念に立ち返り、設定された限度額の範囲内で給付を受けることを徹底すべき。
つまり「これまで選挙対策で限度額の対象外にしていた加算があるが、しばらく選挙もないのでこのタイミングで限度額範囲内に入れてしまおう。」ということです。

⑦地域支援事業(介護予防・日常生活支援総合事業)のあり方の見直し
地域支援事業は一定の範囲内で事業を行う場合、自治体に交付金を支給する仕組みだが、「一定の特殊事情」がある場合は、上限を超えても交付金の支給を認めてきた。この措置を見直す。
つまり「これまで“特別な事情”を認めてきたが、住民主体の事業で総費用の伸びが減ることはなかったのでそれなら上限を超えた交付金は支給しない。」ということです。

⑧軽度者へのサービスの地域支援事業への移行等
要介護1・2への訪問介護・通所介護についても地域支援事業へ移行を検討する。
つまり「軽度者たる要介護1・2の訪問介護・通所介護を介護保険から外します。各自治体で対応してください。」ということです。

⑨軽度者に対する居宅療養管理指導サービス等の給付の適正化
訪問看護や訪問リハビリテーション(訪看からのリハビリを含む)といった医療系サービスは、「通院が困難な利用者」に対して給付することになっているが、実態が異なるため、独歩で介助者の助けを借りずに通院できる者には算定できないという算定要件をより明確化する。
つまり「訪看からのリハビリを厳しく抑制する」ということです。

⑩介護給付費適正化事業(適正化計画)の見直し
ケアプラン点検や要介護認定の適正化など、自治体が行う適正化事業は、ただやっているだけで費用節減や効率化を求めるものになっていない。
つまり「自治体には、実施している適正化事業は費用を抑えるためのものという認識を強く持っていただく」ということです。

⑪居宅サービスについての保険者等の関与のあり方
市町村は地域密着型の事業について、事業者からの指定申請を都道府県と事前協議し、指定拒否することが出来るようにする。サービスの見込み量を超えるような場合は、市町村がサービスの供給量をコントロールできるようにすべき。
つまり「これからは見込み量を超えるサービスの指定申請自体を受け付けない自治体が増える」ということです。

以上の11の論点は、これまでも提言されてきましたが、現場の反対が強く先送りにされてきたものです。特に③利用者負担の原則2割化④ケアプランの自己負担導入⑧デイと訪問介護の要介護1・2を総合事業へ⑨訪問看護からの軽度者へのリハビリ提供要件の厳格化は、財務省の悲願であるようで、毎回提言されていますが、より強い主張となっています。現場は反対しきれるでしょうか?

また、②経営の大規模化・協業化というのがさりげなく入っていますが、これは、小さな法人では経営が成り立たないような報酬に下げ、それに耐えられない小さな法人は大きな法人に吸収合併されるなど、法人の大規模化を進めるイメージです。吸収合併というと聞こえはいいですが、要するに小さな法人は事業が継続できなくなるので廃止となり、利用者は大きな法人が引き継いでいくことで制度を維持する。そうせざるを得ないくらい介護保険財政がひっ迫しているという事を言っています。

それぞれの提言に対して感情論ではなく合理的に反論できるでしょうか?真正面から反論するか?妥協するならどこまで妥協するか?

団塊の世代が後期高齢者となる2025年までの最後の法改正です。私たちは利用者の満足、職員の働き甲斐に「制度の持続可能性」を加味して考えておく必要があります。制度自体が破綻してしまうと、利用者満足も従業員満足も追及している場合じゃなくなってしまいます。

社会福祉士 板垣慎司

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