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コラム

2021.09.24

海外からやって来るのは介護職ではなく一人の人間

介護業界に限らず、どの業界からも人手不足の声が聞こえてきます。極論を言いますと、建築業界で人が足りないのならビルを建てるのを我慢する、飲食業界で人がいないのであれば外食を我慢することになりますが、サービスを受ける側にとって、すぐに命にかかわるイメージはありません。しかし、介護業界で人がいなくなったら困るのは国民全員に及ぶと思います。

もちろん国は対策を講じていないわけではありません。
「特定技能」という在留資格を設け、一定の技能と日本語能力のある外国人を受け入れる制度があります。しかし、在留期間は最長5年で、家族の帯同は認めない。その後、熟練した技能を持つと判断されれば、家族を呼び寄せ、さらに働き続けることができる・・。
日本の外国人労働者を受け入れるための制度設計は、介護の仕事を含めて海外からの労働力を受け入れることを“許可してあげてる”感じです。

現実には何が起きているでしょうか?
制度が出来る前から、留学生として海外から日本に来ている仲間たちはアルバイトという形で介護の現場でも働いてきましたし、ボランティアとして近所の介護施設でお手伝いをしてくれる人もたくさんいました。
便利な時代です。介護施設でアルバイトやボランティアをしたことがある留学生は、母国の仲間にSNSなどを通じて毎日情報を送り続けます。母国では、信頼できる仲間からの情報で日本の様子が手に取るようにわかるわけです。

「日本に来るなら“カイゴ”の仕事だけはやめときな」
「ケアの仕事をするなら日本以外の国がいいよ。英語も通じるし。」
「日本語を勉強して日本に来るならもっと給料の高い仕事はいっぱいあるよ。」
アジアの国々は経済発展をとげ、人材ニーズも彼ら自身のスキルも高まりました。日本は勤務地として「選ばれる存在」ではなくなってしまっているのです。
“介護”という概念そのものがまだ存在しない若い国の人たちに“ カイゴ”のイメージがすでにネガティヴなものになっているのではないでしょうか。日本の若い人たちが介護業界になかなか入ってこないのと同じ理由で、彼らも入ってこないんです。

「我々は労働力を呼んだ。だがやってきたのは人間だった。」
移民国家スイスの作家マックス・フリッシュの言葉です。労働力として受け入れた外国の人には当然、喜怒哀楽もあり、家族もいるし、病気にもなるし、怪我もする。子供が生まれたら保育や教育も必要だし、困ったら相談できるコミュニティも必要なのです。
今の日本が「外国人労働者」に期待しているのは、取り急ぎこの国の人手不足を解消してもらうこと。それではうまくいくはずがありません。

ではどうしましょう?
志を持って“カイゴ”の仕事をするために日本に来てくれた外国人と出会ったら、お互い一人の人間として高め合いましょう。志を持って“介護”の仕事をはじめた日本人も同じです。地道な努力でしか乗り切れないこともあります。
それでも人手不足は自然に進みます。IT活用でも規制緩和でも、考えられるあらゆる知恵を総動員して、今いる私たちの力で、もっと働き甲斐のある環境に変えられるように、国は抜本的に制度設計の見直しをする必要があると思います。

一方で、介護労働安定センターの調べでは、2020年度の介護職員の離職率は、14.9%と過去最低となりました。これは全産業の平均離職率15.6%よりも低い数字です。人手不足感が解消しているわけではありませんが、それぞれの事業者が介護職員に対して、介護を魅力ある仕事として感じることが出来るよう努力してきた成果が出始めているのだと思います。

社会福祉士 板垣慎司

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