コラム
2021.02.03
バイスティックの7原則 ⑥意図的な感情表出の原則
バイスティックのケースワークの7原則の6つ目です。
⑥意図的な感情表出の原則
これは表題からはよく意味がわかりません。まず「感情表出」とは誰の感情のことでしょうか。
クライエント(利用者)は自分の感情を自由にあらわにすることで、自分自身が混乱させていた問題を整理でき、緊張や不安から解放されるものです。だからそれを大切に扱いなさい、ということになります。これだけでも難しいですが、援助者はそれを“意図的に”行うべし、としています。さらに難しいですね。
バイスティックは、クライエントが感情を表現しようとする時は、それを妨げたり避難したりせず、援助という目的を持って耳を傾けることが大切だと言っています。さらに、援助するのに有用だと判断できる時は、その感情表出を積極的に刺激したり、表現を励ましたりすることが必要だとも言っています。
極端にわかりやすい例として、例えば友達が「ちょっと聞いてよ!」と言って自分が置かれた不幸な状況を凄い剣幕で話してきたとします。この時、援助者はこの友達がむき出しにしてきた感情を大切に扱い、その感情を肯定する形で傾聴します。時には、刺激を与えてもっと怒らせたりすることが良い時もあります。するとその友達はだんだん落ち着いてきて「あースッキリした。聞いてくれてありがとう。あんたいい人ね。」となる感じを経験したことのある人も多いでしょう。
つまり、クライエントは、援助者に自分の感情を大切に扱われたと感じることができた時、援助者を評価し、情緒的に繋がることができるのです。しかし、援助者が取るべき態度は、ただ相手に何でもあからさまに話させるものであってはいけません。
援助関係の初期段階になど、クライエントとの関係性が未成熟なまま、深い心理的感情を表現させてしまうと、不健康で不必要な罪悪感を抱かせてしまう場合があります。このような時は、逆に感情表出を“制限”する必要があります。
これ以上感情を掘り起こすのは、クライエントにとって不健康だ、危険だと認識した時、援助者は別の専門家に繋いだり、カウンセリングや治療を受けさせるという判断ができるようにしなければならない、とバイスティックは言っています。プロとしてどこで線を引くかが最も難しく、大切となる場面です。
この原則は、面接技術や雰囲気作りのうまさなど、属人的な要素が強い面もあるものの、“援助”という目的を持って相手の感情を大切に取り扱う、という基本的態度の一つとなります。
社会福祉士 板垣慎司