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コラム

2021.01.19

バイスティックの7原則 ⑤統制された情緒関与の原則

バイスティックのケースワークの7原則の5つ目です。

⑤統制された情緒関与の原則

これは7つ原則のうち、理解するのも実践するのも最も難しいものだと思っています。ここで言っている統制すべき情緒とは、援助者自身の情緒のことです。

援助者は、クライエント(利用者)の困りごとを聴く時、「それはつらいですね」と寄り添う態度で聴いていきますが、「それはつらいですね、と共感しているそんなあなたはどうなんですか?」という問いに対して、自分自身が答えをしっかり持っているか?ということが鍵となります。

バイスティックは次のように言っています。

“ケースワーカーが自分の感情を自覚して吟味するとは、まずはクライエントに対する感受性を持ち、感情を理解することである。そして、ケースワーカーが援助という目的を意識しながら、クライエントの感情に適切な形で反応することである。”

自分自身の感情を自覚して吟味することは“自己覚知”とも言い、これは援助職にある者であれば常に意識しておきたいものです。

「こういう場面に出くわして、今、自分はこんな感情になっているけど、それって自分の中のどこからか来てるんだ?」と、自己の感情を“吟味”してみるのです。それをしておかないと、クライエントへの援助の最中に出会う自分の心の動きに気を取られたり、また無意識のうちに反応してしまったりするからです。

例えば自分自身の経験として、酒癖の悪い父親が大嫌いで、そのお酒が原因で身体を悪くして、面倒を見る自分が大変苦労したという経験のある援助者がいたとして、アルコール依存を課題に抱えているクライエントを支援する際に、「お酒を止められないのは、意志が弱いあなたのせいだ」と思ってしまいがちな傾向があるかもしれません。自分自身の中にある感情が、援助を邪魔してしまうことがあるのです。

「こんな場面に出会う時、私はいつもこんな気持ちになる。それには理由があって、それは自分でもよくわかっている」というふうに自分の心の動きに対する準備をしておかないと、適切な援助は出来ませんよ、とバイスティックは言っています。

この“自己覚知”というのは、訓練すれば身に付きます。

例えば一日が終わって、風呂に入っている時「あー、今日はあの時にこんな気持ちだったなぁ。ところで、なんでそんな気持ちになったのだろう?」と自問してみて、その答えを自分の中に探そうとしてみるのです。その答えは、幼少の頃の体験からかもしれないし、誰かから受けた影響かもしれません。そしてそれは思い出したくない過去の辛い出来事だったのかも知れません。

それらとしっかり向き合う訓練をして、自己覚知の力を高めていくのです。この原則は、前回の「非審判的態度の原則」の実践にも繋がってくるものです。

社会福祉士 板垣慎司

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