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コラム

2020.06.08

“移動”を支援する

新型コロナウィルスとの闘いは長期戦となり、今後しばらくは3つの“密”を避けるための行動変容が求められていくことでしょう。その中でも外出を自粛するためのSTAY HOME運動が、人との接触を避けて感染を防ぐ一番の対策となっています。
このSTAY HOMEも期間が長くなってると、多くの人がストレスを感じてきます。個人によって差はありますが、長くなればなるほどそのストレスは、心に大きくのしかかってきます。

人間にとって"移動を制限される"ということは何よりも苦痛となります。例えば重い罪を犯した人は刑務所に入れられ、その中でも特に重い罪に対する罰は独房に入れられることです。窓もなく、景色が何一つ変わらない部屋で何年も過ごすことを強いられるのです。食事や睡眠は与えられるのに、とにかく場所を移動することを制限し、他人との関わりを極限まで制限される。人間は、"移動できない"という状態を強いる事を最大の罰にしてきたのです。

思い返せば子供のころ、親に叱られて押し入れに閉じ込められたりすることがありました。これは今では躾の範囲を超えていると認識されていますが、これも“移動を制限する”という罰を子供に課していたのです。子供たちは「こんな思いをするくらいならいい子になろう」と反省しました。本能的に“これは辛い・怖い”と感じたからです。人間は、"移動を制限されること"の辛さを、生まれながらにわかっているのです。これが何の落ち度もない人たちに対して強いられているのがSTAY HOMEの状態です。

一方で、感染症で隔離されるということは新型コロナ以外でも以前からありました。病気や障害によって自分の力では移動できない人は少なくないですし、加齢によってADLが低下しこれまで出来ていた活動が出来なくなる人は、今後も増えてきます。緊急事態宣言が解除される日が来るまで、ということではなく、いつまで続くのかわからない、中には残りの人生のすべてをベッドの上で過ごさなければならないという人もいます。在宅で暮らしていても、誰かの支えが無ければ、同じ壁と同じ天井を毎日毎日眺めるしかないという人たちに対して、私たちは、専門職をはじめとした“人による支援”を続けてきたのです。

私たちは、STAY HOMEを体験したことによって、改めてそのような方々の苦痛を自分のこととして感じることができるようになりました。このような人間の尊厳に関わる状態を少しでも作らないために、可能な限りヘルパーなどによる移動支援や外出支援が行われているのです。極端なことを言えば体位変換だけでも見える景色は変わります。
介護に従事する専門職たちは誰よりも、人間にとって"移動すること"がかけがえのないことである事を知っています。"移動する"という事をいつも大切に丁寧に扱う事は、介護職にとってとても大切なことなのです。

社会福祉士 板垣慎司

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